血塗れ竜と食人姫

第13話

突然の辞令に、僕は当然抗議した。 しかし、一介の監視員に発言力など欠片も無く。 結局、白に打ち明けることもないまま、僕は血塗れ竜の付き人ではなくなった。 「ユウキさーん。ユウキさんってばー」 「……何ですか?」 「そろそろ機嫌直してよー。 もうど…

第12話

「――ゲスト後発。出番だ」 係官が、私を呼びに来た。 セっちゃんは、帰ってこなかった。 それでも――聞かずにはいられなかった。 「あの……妹はどうなりましたか?」 「ん? 食人姫に喰い殺されたぞ。 身体は原形を留めてないから、そのまま丸めて焼却されるだ…

第11話

第10話

「――もうすぐだね、姉さん」 「そうだね、セっちゃん」 闘技場の西側控え室。 通常なら、西棟の囚人が待機するはずの場所で、美女二人が待機していた。 どちらも長い黒髪の美女である。 纏っているのは野暮ったい黒装束だが、それでも二人のスタイルの良さは…

第9話

どたんばたん、と足音が聞こえたかと思ったら。 勢いよく扉が開け放たれ、そこにいたのは驚き顔の女の子。 「――嘘!? 姉さんが一人で帰ってきてる!!」 第一声がそれですか。 というか、向かいに座っている男の姿には気付いていない模様。 外見は、ユメカ…

第8話

「ほら、ここはアンタのおごりだ。好きなの頼め」 「そうですか――って、あれ?」 何かおかしくないか? と思った直後には、言い出しっぺが果実酒を頼んでいた。 「あー。それじゃあ、エールをお願いします」 駆けつけ一杯。 これからする話は、あくまで酒の…

第7話

殺してやりたい。 殺してやりたい。 殺してやりたい。 殺してやりたい。 でも、ユウキが駄目って言った。 だから私は我慢する。ユウキに嫌われたくないから。 それに、ユウキは私と一緒にいてくれる。 あんなむかつく女のことなんて、ユウキが頭を撫でてくれ…

第6話

――連れてこられたのは、東棟の端の部屋。 囚人部屋のように殺風景な部屋ではなく、広々として豪奢な意匠の部屋だった。 来賓者をもてなすための場所だろう。 そしておそらくは――東棟の特産物を使って、“もてなす”ための場所。 気を遣って消臭しているのだろ…

第5話

闘技場と控え室を繋ぐ通路。 試合に赴く囚人が、己の気を高ぶらせながら歩む道。 生き残った囚人が、勝利の余韻に浸る道。 そこで、今は。 「貴女が王者の血塗れ竜ですか? はじめまして。アトリっていいます」 「お前なんか知らない。消えろ」 二人の少女が…

第4話

あのあと、冷静になって考えてみた。 アトリとの約束は、こちらの動揺に付け込んで為された稚拙な誘導によるものだ。 後からいくらでも反故にできるし、こちらから説き伏せることも可能だろう。 でも。 なんだかんだで、アトリに言葉を教える約束を取り付け…

第3話

「あ、白、こぼしてますよ」 ふきふき。 「んー」 「ああもう、拭いてる途中なんですから食べるのを再開しないでください。 って、言ってるそばからもう!」 「ユウキ、くすぐったい」 「こら、大人しくしなさい」 「んーんー。はむっ」 「人の指をくわえな…

第2話

血塗れ竜の朝は遅い。 試合は基本的に最終で、王者特権で囚役も免除されているため、昼間にやることが何もないからである。 故に彼女はよく寝ている。 寝相は良いのか悪いのか、ベッドから転がり落ちることはない代わりに、布団を蹴飛ばして腕や太股をさらけ…

第1話

闘技場は、今宵も満員御礼だ。 怒号や罵声が途切れることはなく、中央で撒き散らされる血飛沫に、誰もが興奮し没入していく。 今日の対戦も順調に進み、ちょうど、準主戦の決着が付いた。 砂地の闘場は存分に血を含み、照明の下で妖しい輝きを放っている。 …

「嫉妬・三角関係・修羅場系総合SSスレ」に投下していた長編SSです。 ジャンルはファンタジー。 囚人闘技場の王者、血塗れ竜。 特異な能力を持つ新人、食人姫。 そんな二人の物語。最後はきっと、しあわせになれます。 目次 ・第1話 「血塗れ竜」 ・第2…